中島たい子さん著「漢方小説」から学ぶ、漢方と東洋医学の世界
東洋医学の世界がのぞける小説「漢方小説(中島たい子著)」を紹介。31歳の独身女性が主人公のクスッと笑える内容で、恋や仕事のことに加えて、東洋医学の話がたくさん登場。西洋医学との違いが気になっていた方におすすめ。すばる文学賞受賞作品。
こんにちは、薬剤師の田伏将樹です。
東洋医学や漢方に興味はあるけれど、堅苦しい文章の専門書を読むのはちょっと苦手という方もいらっしゃることでしょう。
そんな場合は、東洋医学の世界を覗ける小説はいかがでしょうか。
今回お薦めする小説の題名は、その名も『漢方小説』。
第28回すばる文学賞受賞作品です。
「漢方小説」の著者は、中島たい子さん。
集英社より出版されています。
主人公は31歳の独身女性。
恋と仕事のお話はもちろんですが、それに漢方のお話がたくさん織り交ぜられています。
話は、自宅で動けなくなって救急車で運ばれるところから始まります。
症状はひどいのに、いくら病院で検査しても「特に異常なし」。
そして、漢方の医師と出会います。
漢方医による診察の様子や、東洋医学についての話がたくさん出てくるのですが、そこはさすが作家さんが書く小説です。
主人公の視点で、時には登場人物の会話の中で、東洋医学の特徴がとても分かりやすく描かれていると思います。
次に、本の内容について、少しだけ解説を添えてご紹介します。
主人公が、診療所で漢方医の診察を受けるシーンがあります。
舌診、脈診、腹診など、漢方独特の診察の様子が描かれています。
たとえば腹診では、医師が患者のお腹を触るのですが、ベッドに仰向けに寝た時に、西洋医は膝を立たせた状態で診るのに対して、漢方医は患者の膝は伸ばした状態で触っています。
それは、診ているものが違うからです。
西洋医の腹診は、腫れていたりする臓器がないかを手で探すので、膝を立たせてお腹の筋肉をゆるませて、グイグイ押します。
一方、漢方医の腹診は、お腹の筋肉の硬さや温度、軽く触ったときの反応を診ます。
次のようなことが、体質を判断する材料になります。
- お腹が軟弱
- お腹が冷たい
- 不快感がある
- くすぐったがる
- チャポチャポと水の音がする
- 拍動を感じる
主人公が漢方医に、「自分の病名は何か」と尋ねるシーンがあります。
漢方医は、病名は「ない」と答えます。
病名は「いらない」とも言います。
東洋医学は個人の自然治癒力を重視していて、病気になるのはどこか体のバランスが崩れているからだと考えます。西洋医学のように病気の部分のみを治そうとするのではなく、その人の生まれながらの体質、今弱っているところ、患者さん全体を個人レベルで診ます。
ですから「あなただけの病気」だと説明します。
西洋医学では、病名の診断がつかなければ治療することができません。
だから検査して、紹介された先の病院でもまた検査して、それでも異常が見つからなければ「精神的なものではないか?」と言われてしまうことがあります。
一方で、東洋医学では体の調和を診ますので、どのようにバランスが乱れているかを診察することで、それを整えていく治療ができます。
また、仮に西洋医学的な病名がついたとしても、体質が違っていれば、薬や治療法が異なってきます。
東洋医学では、「陰陽」「気血水」「五臓」などで体の状態を表現します。
- 「気が足りていない」
- 「陽に傾いている」
- 「腎が弱っている」など
これは、現在の科学的な説明とは大きく異なるものです。
科学的には証明ができない理論で説明がなされるものに、友人から「何でこじつけで治るんだろう?」という疑問があがります。
その問いに対して、「二千年の臨床治験があることが大きな理由」だと答えています。
主人公が服用している漢方薬も、「長い歴史の中で淘汰されて残った薬のひとつ」。
これは事実です。
ですから、「効くことは長い歴史で立証されている」のです。
「漢方小説」という題名だけあって、漢方の世界をたくさん感じられる小説です。
専門書だと難しく書かれていることも、サラッと読み流せることができると思います。
東洋医学の観念や雰囲気をぜひ味わってください。
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