東日本大震災の被災地(宮城県山元町)にて - Latte

東日本大震災の被災地(宮城県山元町)にて

  • 旅行期間: 2012/04/09 ~ 2014/03/28
  • 作成日:2015/10/27 21:30
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東日本大震災により被災した海岸の復興支援業務にて
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 北海の荒波を波を蹴立てて出航していく独航船の様に、初冬の荒れる海岸で、波しぶきをかぶりながら独行するのは、 ”捨石(すていし)作業”と呼ばれる、海岸復旧作業の一番最初の作業である。

 今回の復興作業の中で、一番最初に私が担当した工事であった。

 津波によってえぐられ、湾になってしまった海岸を閉め切る為に、何の足掛りも無い海上に繰り出して、”捨石”を投入して閉め切り、日々打寄せる波浪によって、堤防が損壊したり持ち去られない為の、波のエネルギーを減少させるための消波ブロックを設置するための前作業であった。

 これらが出来て初めて後背部の抉られた海岸の埋め立てや、主目的である堤防の築堤工事が出来るという本当に基礎となる工事であった。

(独行するバックホウ;海岸復旧作業の先駆け:捨石作業)


 前段取りとなる消波ブロックの製作を終え、諸々の経緯があって遅れ遅れになった工事の工期を取り戻すために「さあ、これから!」という時がこの時期になってしまった。が、請負業者さんは時期に頓着しておられず、来る日も来る日も、荒狂う波に持って行かれても持って行かれても、この捨石作業を繰り返し、とうとう、堤防を兼ねた工事用道路を残っていた堤防とつないで完成させた。

 日々、波をかぶり続けた機械は、エンジンが壊れて駄目になってしまった。 ここに写っている機械は2台目なのである。 

 リース機械とはいえ、その損害は会社にとっては痛かろうはずなのだが、この現場代理人曰く、「仕方ないですよね!」とその一言だけで、彼から愚痴らしい言葉を聞くことは無かった。

 これまたその現場代理人曰く「請け負って、造ると約束したものは造ります。 当然のことですよね。」…と。

 彼等は、「建造物(工事目的物)を必ず造る。」という行為に誇りと意地を持っているのである。そして、そこに「成し遂げた!」という達成感と満足感。  そして、彼等の家族を潤せるほどの利益が有れば「言う事はなし!」…といった風情なのである。


  彼等の残した建造物は、法線上の関係で美しくも見える堤防(冒頭の写真)でもなく、それらの建造物に彼等の名前や企業名が残る”標示板”も設置される事も無い、ただただ真っ直ぐな、およそ600m程の、それこそ捨石と岩ズリだらけの工事用道路と消波ブロックだけの工事であったが、彼等は、数々の困難と挫折をものともせずこの目的物を造り上げて完成させ、熱中症で苦しんだり、その他の病で倒れかかった仲間達と共に彼等の本拠地である北海道へと帰って行った。

 工事の遂行上、彼等とは衝突もし、喧々諤々の議論をたたかわせたりした事もあったが、今は言おう「お疲れ様!」と。

(波しぶきをかぶりながら稼動するバックホウ)

(残った堤防と間もなくつながる工事用道路)

(捨石作業の後に造られている堤防)

(築堤工事)

(”捨石作業”の後に造られる、美しくも見える曲線を描く、完成間近の堤防)

(”捨石作業”の後に造られる、美しくも見える曲線を描く、完成間近の堤防)


※ 海岸や港湾の構造物は人の目には見えない海中部の方が多い建造物がある。

 港湾の岸壁や物揚場等は、コンクリートの下には地中深く鋼矢板が打込まれ、それらを引張り、支えたりするためのコンクリート基礎や鋼棒等の重要な構造物が隠れているのである。

 波浪を防ぐための沖合の堤防等は、「ケーソン」と呼ばれる鉄筋コンクリートの函(はこ)を、”大まわし”と呼ばれる太いワイヤーロープで縛り、曳船で製作場所の港のドックから現場まで運んできて、現場でケーソンのバルブを開けて、器械で位置を確認しながら、ジワリジワリと沈めて設置したりするのだが、そのほとんどは海の中である。

 また、そのケーソンを据え付ける為の基礎作業では、かつてNHKで放映された「あまちゃん」でも紹介されている、”南部潜りの人達”が、あの宇宙服の様ないでたちで、潜水病に苦しみながら、トン石と呼ばれる捨石作業を機械や手作業で造り上げてその土台を造るのである。

 かつては、潜水病やその他の事故で亡くなった”南部潜り”の人達が多かったと聞く。 数々の建造物には、目には見えない多くの人達の苦労と努力がある。


(測量による出来形の確認)


              【 おわり 】





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