航空トラブルの分類は3つ!「航空事故」「重大インシデント」「イレギュラー運航」の定義と違い
航空機のトラブルや事故は「航空事故」「重大インシデント」「イレギュラー運航」の3つに分類されることをご存知でしょうか?それぞれの定義について、航空アナリストがわかりやすく解説します。
航空機(飛行機やヘリコプターなど)によるトラブルや事故を航空事故と言いますが、 すべてのトラブルや事故が「航空事故」として認定されるわけではないことをご存知でしょうか?
今回は、航空界における事故やトラブルのさまざまな定義についてご紹介したいと思います。
■3月24日
関西発福岡行きのピーチ・アビエーション151便(エアバスA320)で福岡空港着陸時に前輪のタイヤ2本がパンクし滑走路が閉鎖。
重大インシデントに認定。
■4月9日
大韓航空の済州発関西行きKAL733便(ボーイング737-900)が関西空港において、着陸やり直しをを行った際、機体後部下面を滑走路に接触させた。
航空機事故に認定。
■5月24日
熊本空港を離陸した羽田行きのJAL623便(ボーイング767-300)でエンジン不具合が発生、エンジンの金属片が落下。
重大インシデントに認定。
■6月7日
沖縄の那覇港沖で、エクセル航空所属のヘリ(ユーロヘリコプターAS350B)が墜落、死者なし。
航空事故に認定。
■6月7日
ベトナム・ホーチミンの空港で、離陸に向け誘導路を走行していた成田行きANA834便(ボーイング767-300)がブレーキをかけた際、客室乗務員5人が転倒するなどしてケガをする事故発生。
1人が腰椎を折る重傷となっており、航空事故に認定。
■4月17日
アメリカのサウスウエスト航空1380便で、飛行中にエンジンが爆発。
緊急着陸をするも、爆発したエンジンの破片により客室窓が破壊し急減圧が発生、1名死亡。
航空事故が発生した際、報道後しばらくして、「今回の事故は、国土交通省より航空重大インシデントと認定され、詳しい調査が開始されます…」といった報道発表を耳にしたことはありませんか?
え?航空事故なのに、航空重大インシデント?
そもそも、「重大インシデント」とは一体何でしょうか?
その違いは、航空法により、次のように定義されています。
航空法第76条に基づき、以下の4つのいずれかに該当する場合は航空事故となります。
- 航空機の墜落、衝突又は火災
- 航空機による人の死傷又は物件の損壊
- 航空機内にある者の死亡(自然死などを除く)又は行方不明
- 航行中の航空機の損傷
重大インシデントとは、航空法第76条の2で「航空事故が発生するおそれがあると認められる事態」を指します。
17の事態が航空法施行規則第166条の4に定められています。
航空法施行規則原文
(事故が発生するおそれがあると認められる事態の報告)
航空法第166条の4 法第75条の2項国土交通省令で定める事態は、次に掲げる事態とする。
- 閉鎖中の又は他の航空機が使用中の滑走路からの離陸又はその中止
- 閉鎖中の又は他の航空機が使用中の滑走路への着陸又はその試み
- オーバーラン、アンダーシュート及び滑走路からの逸脱(航空機が自ら地上走行できなくなつた場合に限る。)
- 非常脱出スライドを使用して非常脱出を行つた事態
- 飛行中において地表面又は水面への衝突又は接触を回避するため航空機乗組員が緊急の操作を行つた事態
- 発動機の破損(破片が当該発動機のケースを貫通した場合に限る。)
- 飛行中における発動機(多発機の場合は、二以上の発動機)の継続的な停止又は出力若しくは推力の損失(動空機の発動機を意図して停止した場合を除く。)
- 航空機のプロペラ、回転翼、脚、 方向舵、昇降舵、補助翼又はフラップが損傷し、当該航空機の航行が継続できなくなつた事態
- 航空機に装備された一又は二以上のシステムにおける航空機の航行の安全に障害となる複数の故障
- 航空機内における火炎又は煙の発生及び発動機防火区域内における火炎の発生
- 航空機内の気圧の異常な低下
- 緊急の措置を講ずる必要が生じた燃料の欠乏
- 気流の擾乱その他の異常な気象状態との遭遇、航空機に装備された装置の故障又は対気速度限界、制限荷重倍数限界若しくは運用高度限界を超えた飛行により航空機の操縦に障害が発生した事態
- 航空機乗組員が負傷又は疾病により運航中に正常に業務を行うことができなかつた事態
- 物件を機体の外に装着し、つり下げ、又は曳航している航空機から、当該物件が意図せず落下し、又は緊急の操作として投下された事態
- 航空機から脱落した部品が人と衝突した事態
- 前各号に掲げる事態に準ずる事態
- 航空事故…航空機そのもの破壊や、航空機同士の衝突、死傷者が発生した場合
- 重大インシデント…基本的に上記以外の事象
このように認識してよいと思われます。
航空事故と航空重大インシデントについては、国土交通省の外局の一つである「運輸安全委員会(Japan Transport Safety Board、略称:JTSB)」により事故調査が行われます。
この機関は航空だけでなく、鉄道、船舶の事故の原因究明調査も行います。
飛行機が離陸して、何らかの原因で引き返すことを「エアターンバック」と言います。
このトラブルは、どのよう分類されると思いますか。
航空事故でしょうか?それとも重大インシデントでしょうか?
この場合は、一般的に直ちに運航の安全に影響を及ぼすような異常事態ではありませんね。
ですので、イレギュラー運航というカテゴリに分類されます。
イレギュラー運航とは、『航空機の多重システムの一部のみの不具合が発生した場合等に、乗員がマニュアルに従い措置した上で、万全を期して引き返し等を行った結果、目的地等の予定が変更されるもの』と定義されています。
一般的には、直ちに運航の安全に影響を及ぼすような異常事態ではありません。
以下のような場合は、イレギュラー運航に該当します。
- 離陸後に目的地を変更した場合(※1)
- 出発地に引き返した場合(※1)
- 航空交通管制上の優先権を必要とする旨を通報した場合(※1)
- 航空機が他の航空機または物件と接触した場合
- 航空機が滑走路から逸脱した場合
- 滑走路を閉鎖する必要があるような運航があった場合(※2)
※1:機材の不具合等によるものに限る。
※2:滑走路点検のために閉鎖するものを除く。
国土交通省へ報告された2017年のイレギュラー運航の発生件数は、200件。
この200件には、国内航空会社だけでなく、日本に就航している外資系航空会社が日本国内で発生させたケースも含みます。
なお、鳥衝突(バードストライク)や機体への落雷といった事象は含みません。
このイレギュラー運航については、航空各社でも自社のホームページなどで詳しい情報を公開しています。
ご自分が利用する航空会社が他社と比べてどのような状況なのかを判断できますので、比較参考とするのもよいかもしれませんね。
航空事故・トラブルは、一概に「航空事故」とまとめて報道されるケースが多いですが、実は「航空事故」「重大インシデント」「イレギュラー運航」の3つに分類されることがお分かりいただけたかと思います。
航空事故・トラブルは、自動車事故と比べて発生件数は少ないものの、一度起きると社会へ与えるインパクトが非常に大きいですね。
空の旅は、一昔前と比べると非常に身近なものになっています。
航空事故だけでなく、航空トラブルがなくなってくれることを願ってやみません。
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