プロピアニストも避ける難易度の高いクラシックとは?ハノンやショパンの練習曲から学ぶ音楽表現と技術

執筆者: 小川 瞳 職業:ピアニスト

こんにちは、ピアニストの小川瞳です。


今回は「プロでも避ける難易度の高い曲のまとめと、その曲の歴史・由来」についてご紹介します。

 

ピアノ作品の演奏は「表現」と「技術」

クラシックのピアノ作品の演奏における難易度には、大きく捉えて二種類あります。

 

作品の理解

一つは、作品を理解し表現することの難しさ。
音楽は奥が深く、その作品を理解するまでにも様々な勉強が必要ですし、その音楽世界を表現するには、さらに自分の力を高めなければなりません。

例えばロックなどに置き換えて考えてみると、バラードのような音楽がそれにあたるかもしれません。
「バラードで観客を泣かせられる歌手は上手い」というようなイメージは、多くの人が持っているようにも思います。

観客の感情を揺さぶることの出来る歌手は、表現技術がとても長けていると言えることでしょう。

そして感情を揺さぶるためには、その曲の世界観、作者の気持ち、表現法、その他のことを深く理解し、時には自分なりの表現に落とし込まなければなりません。

 

技術的な問題

そしてもう一つは、単純に技術的な難しさが挙げられます。
とても速い曲であったり、音域が広かったりと、高い演奏技術を要する曲のことです。

ロック歌手に例えると、やはりスピード感のある曲であったり、ビブラートやハイトーン、ファルセットやシャウト、デスボイスなど、様々な技術を目まぐるしく使い分ける曲が「技術的に難易度の高い曲」とされるのではないでしょうか。

 

今回のテーマである「プロでも避ける超難易度の高い曲」は、どちらかと言えば後者が当てはまるように思います。
本番という特殊な環境の中、技術的にあまりにも難しい曲はリスクが高いからです。

 

 

技術的に難易度の高い曲は

さて技術的に難易度の高い曲といえば、練習曲が挙げられます。
練習曲はその名の通り、演奏技術を習得するための手助けとなるように作られた作品です。

練習曲には、ハノンのように「機械的な指の運動を行うための曲」もあります。
こちらは、楽曲としては成立していないような、いわば指の準備体操や筋トレにあたるものです。

 

シャルル=ルイ・アノン(Charles-Louis Hanon)

ピアノの教則本「60の練習曲によるヴィルトゥオーゾ・ピアニストVirtuoso Pianist In 60 Exercises」は有名で、今日のピアノ教師にとって標準的な教材の一つとなっている。ピアノ音楽の領域で「ハノン」という場合にはこの曲集を指す。これらの曲はフィンガートレーニングを行なうためのものであり、楽曲として成り立っている他の練習曲とは性格を異にする。


チェルニーのような練習曲が、一般的な練習曲といえるでしょう。
こちらは、演奏会で弾くことを目的とはしておらず、あまり美しい作品とは言えないですが、一応、楽曲としての体裁は整っている作品です。

「100番練習曲 Op.139」や「技法の練習曲(30番練習曲) Op.849」、「小さな手のための25の練習曲 Op.748」など、多くの練習曲を残しています。

 

演奏技術と芸術性を兼ね備えた「ショパンの練習曲」

今回取り上げたいのは、ショパンの練習曲集です。
こちらはプロが演奏会で弾くことを前提に、最高難易度の演奏技術を要求すると共に、音楽的な芸術性をも兼ね備えた作品なのです。
つまり、「表現的・技術的」あらゆる方面から難しい作品といえます。

ショパンの練習曲は全部で27曲あります。
時折、この27曲全曲を演奏会で演奏なさっているピアニストを見ると「すごい!」と私は驚きます。

以下の内容で構成されています。

 

12の練習曲 作品10
  • 第1番『滝』 ハ長調
  • 第2番 イ短調
  • 第3番『別れの曲』 ホ長調
  • 第4番 嬰ハ短調
  • 第5番『黒鍵』 変ト長調
  • 第6番 変ホ短調
  • 第7番 ハ長調
  • 第8番 ヘ長調
  • 第9番 ヘ短調
  • 第10番 変イ長調
  • 第11番 変ホ長調
  • 第12番『革命』 ハ短調

 

12の練習曲 作品25
  • 第1番『エオリアン・ハープ』 変イ長調
  • 第2番 ヘ短調
  • 第3番 ヘ長調
  • 第4番 イ短調
  • 第5番 ホ短調
  • 第6番 嬰ト短調
  • 第7番『恋の二重唱』 嬰ハ短調
  • 第8番 変ニ長調
  • 第9番『蝶々』 変ト長調
  • 第10番 ロ短調
  • 第11番『木枯らし』 イ短調
  • 第12番『大洋』 ハ短調

 

3つの新練習曲 『モシェレスのメトードのための』
  • 第1番 ヘ短調
  • 第2番 変イ長調
  • 第3番 変ニ長調

 

この練習曲集が生まれた理由についていくつかの説がありますが、最も有名なものは「ショパン自身が、ショパンのピアノ協奏曲を演奏するのに苦労したから、自分の技術向上を目指して、様々な技術が身に付く練習曲集を作り上げた」という説が有名です。

 

ショパンの「協奏曲」も確かに難易度の高い曲ではあるのですが、技術の難易度としてはこの練習曲集の方が上だと私は思います。

 

 

おわりに

テストで良い点を取るためには、あらゆる知識を増やして臨まなければいけません。

そのため、困難さだけを比べたら、テスト本番よりも日頃の勉強の方が大変という感覚に似ているかもしれません。


ショパンの練習曲全曲演奏となると、プロでもあまり挑戦していないほどなのです。

 
 コラムニスト情報
小川 瞳
性別:女性  |   職業:ピアニスト

ピアニストとして東京や茨城を中心に、ソロの演奏会やオーケストラとの共演など、数多くの演奏活動を行っております。
音楽心理士の資格も持ち、トークコンサートやコンクールの審査員もつとめております。
また長年に渡り執筆活動も並行して行っており、小説を3作品出版しております。
こちらのサイトでは、幼少時よりピアノを学び続け、クラシック音楽の世界に身を置く私ならではのコラムを執筆できたら、と思います。
よろしくお願い致します。
小川瞳 公式ホームページ https://ogawahitomi.amebaownd.com/

小川瞳作曲 笑顔のBGM
https://youtu.be/Qrt-stZPTb8