フランスワインのテロワール(生育環境)について思うこと -神に選ばれたブドウ畑 Montrachet(モンラッシェ)-

執筆者: 松岡 正浩 職業:レストラン「オテル・ド・ヨシノ」 支配人兼シェフ・ソムリエ

今日、ワインを語る上で欠かせないキーワードがこの“テロワール”。今や、どのワイン生産者も二言目にはテロワールを口にします。
さて、このテロワールを究極に表現したワインがフランスブルゴーニュ地方に存在します。
世界最高と言われるMontrachet(モンラッシェ)とその近隣の畑から生まれる白ワインです。

ブドウ畑のテロワール(生育環境)とは

テロワールとは日本語にならない難しい概念の言葉ですが、総じて「土地(土、土壌、大地)」「気候」「人的要素」を総合したブドウ造り全般の生育環境のことを指します。

ワインのテロワールを考える上でわかりやすい畑があります。ブルゴーニュ地方、ピュリニィ・モンラッシェ村シャサーニュ・モンラッシェ村にあるグランクリュ、Chevalier-Montrachet(シュヴァリエ・モンラッシェ)Bâtard-Montrachet(バタール・モンラッシェ)、そしてMontrachet(モンラッシェ)です。これらは最高クラスの白ワインを産する畑として世界的に有名です。

この中で最も標高の高いところにあるのがChevalier-Montrachet(シュヴァリエ・モンラッシェ)、その下(東側)にMontrachet(モンラッシェ)、さらに下部にBâtard-Montrachet(バタール・モンラッシェ)が続きます。
このあたりは小高い丘になっており、その斜面に畑が順に並んでいるのです。

 

 

表土と土壌、ミネラルの関係

地球上のほとんどの物質は、高いところから低いところに至ります。表土は丘の高いところから低いところへと転がり流されるので、下部になればなるほど表土がより多く堆積するのです。そして、その表土の下には本来の土壌(母岩)が存在します。

表土とは、土壌の最上層部のことです。風化が進んで有機物に富み、黒色を呈するのが一般的です。有機物に富んでいますから、土地が肥沃で栄養分が多いと考えられます。ですから、表土が多い(厚い)肥沃な低地で栽培されたブドウから造られたワインの方が“ふくよか”になります。反対に表土が少ない(薄い)、比較的痩せた標高の高いところにある畑では、本来の土壌(母岩)の影響をより多く享受するため、出来上がるワインはより鉱物的なニュアンスが強くなります。平たく言えばミネラルに富むということです。

標高差の違いによるワインの違い

さて、標高の高いChevalier(シュヴァリエ)と少し低地にあるBâtard(バタール)を飲み比べると、その違いは一目瞭然です。

標高が高いため気温が低く、表土の薄いところに存在するChevalier(シュヴァリエ)からは、鋼のようなミネラルに生き生きとした酸、加えてグランクリュとしての強さ、品を併せ持つ白ワインが生まれます。
一方、標高が低い分気温が上がり、表土が厚く肥沃なBâtard(バタール)では、よりふくよかで果実味が勝り、(こちらも素晴らしいワインですが、Chevalierに比べると)時にはやや豊満すぎる白ワインが出来あがります。

そして、その中央に鎮座するMontrachet(モンラッシェ)においては、酸やミネラル、果実味など全てが最高のバランスをもって表現されます。気候や土壌、標高や日当たり、風の流れなどのさまざまな要因がブドウ(シャルドネ種)にとって究極的にまで適しているため、そのブドウから最も完成度の高い白ワインが生み出されるのです。

これぞテロワール

ところで、標高数メートルから十数メートルの違いで、気温やその他の環境がそんなに変わるのかとお思いの方もおられるのではないでしょうか。
一日単位でしたら、例えば気温がゼロコンマ数度違うだけかもしれません。ただ、その差は一年間にするとかなりの差になります。日当たりもまた然りです。ほんの些細な標高差、畑の向き、角度によって太陽から受ける恩恵は、年間として考えると大きな差になるわけです。
加えて、風が湿気を吹き飛ばしてくれるかどうか、地熱を蓄えることで霜が降りにくいかどうかなど、ほんの些細なことでも長いスパンで見ると大きな違いになります。

また、ブドウは気温をはじめとする全ての要素が高すぎても(強すぎても)、低すぎても(弱すぎても)良いワインにはなりません。全ての要因がバランスよく整っていることが良い畑の条件なのです。
さらに、ここに人の手が加わります。誰もが素晴らしいと考えるMontrachet(モンラッシェ)の畑と、例えばBâtard(バタール)よりもさらに下方にある村名AOC(原産地呼称)にすら認められない畑。この二つの畑を造り手が全く同じ考え方、予算、手間暇、愛情を持って相対するとは考えられません。


Montrachet(モンラッシェ)はシトー派の修道僧に選ばれた畑として、実に1000年近い歴史を誇ります。1000年もの間、特別に扱われ続け、現在もその最高位を保ち続けているのです。

 

この歴史をも含めた生育環境全て、これがテロワールです。そして、Montrachet(モンラッシェ)が神に選ばれた畑と言われる由来なのです。


少し下からこのMontrachet(モンラッシェ)の畑を見上げると素人目にも完璧と思わせる光輝いた場所に畑があることが見て取れます。

これらの三つのグランクリュの畑全てを持っている生産者がいますので、完全な比較テイスティングが可能です。非常に高価で生産量が少ないため、手に入るかどうかはまた別の問題ですが。

 
 コラムニスト情報
松岡 正浩
性別:男性  |   現在地:和歌山市  |   職業:レストラン「オテル・ド・ヨシノ」 支配人兼シェフ・ソムリエ

・1995年 山形「パレス・グランデール」
・2003年 東京「タテルヨシノ・芝」 メートル・ド・テル
・2004年 フランスに渡る。各地で研修その他
・2007年 パリの日本料理店「あい田」シェフ・ソムリエ
・2008年 パリ「あい田」日本料理店初のフランスミシュラン一つ星獲得
・2012年 日本に帰国
・2013年 和歌山 「オテル・ド・ヨシノ」 支配人兼シェフ・ソムリエ

・JSA認定 シニアソムリエ
・S.S.I. 認定 唎酒師
・フランス・パリ農業コンクール ワイン部門審査員

・ソムリエ試験対策サイト
『ちょっとまじめにソムリエ試験対策こーざ』管理人
 http://koza.majime2.com/

 

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