新薬開発には偽薬が必須!医薬品開発の壁「プラシーボ効果」とは
こんにちは、プラセボ製薬株式会社の水口直樹です。
突然ですが、日本の厚生労働省やアメリカ医薬品食品局(FDA)、はたまた世界保健機関(WHO)までもが「ある科学的な枠組み」を採用していることはご存知でしょうか?
先進各国の保健機関が、様々な制度設計で採用する「ある枠組み」、それは「プラシーボ効果の存在を前提とする」科学的な枠組みです。
プラシーボは、日本語で「偽薬(ぎやく)」と訳され、薬の形をしているけれども、薬効成分を含まないニセモノの薬のことを言います。
実はこうした偽薬でも、それを服用する人が「良く効く」と思い込めば効いてしまうような現象が知られており、「プラシーボ効果」と呼ばれています。
保健機関が管轄する重要な仕事に、製薬企業が開発した新たな医薬品の有効性を審査する業務があります。
新規医薬品開発の最終段階においては、実際の患者さんに薬を投与して効果を測定する臨床試験(治験)が実施されます。
実はこの時、見分けがつかないように作られた偽薬も投与して、効果を検討しなければなりません。
なぜなら、「薬の効果」なのか「プラシーボ効果」なのかは、統計を用いて比較することでしか判別できないためです。
従って、プラシーボ効果の存在を無視した試験では、有効性が認められることは基本的にありません。
プラシーボ効果以上に効果のあることが認められると、晴れて新薬として上市されることになります。
効果のある薬であると証明するためには、偽薬がもたらすプラシーボ効果よりも効果が上回っていなければなりません。
逆に言えば、偽薬を用いなければ、薬の効果は証明できないことになります。
しかし、エボラ出血熱など致死性の高い病気においては、「有効かもしれない新薬」の有効性を「有効ではない偽薬」を使って証明するという、煩雑かつ倫理的に正当化できるか分からない試験が即時対応を遅らせると指摘されています。
科学と倫理が相反する顕著な例として、臨床試験における偽薬使用の可否は、現在でも議論が続けられています。
また製薬企業が巨額の研究開発費を費やして臨床試験を行ったにも関わらず、偽薬よりも有効であることが証明できなかった(偽薬と同等の効果しかなかった)、という事例が多数報告されています。
プラシーボ効果の存在は、医薬品開発の高い壁となっています。
現在では遺伝子を解析してプラシーボ効果の出にくい人を選別することで、有効な医薬品の創出を促進するという研究も為されています。
製薬企業にとっての高い壁も、見方を変えれば、人を見つめる医療の最後の砦となるかもしれません。
「プラシーボ効果を邪険にすることなく、上手く活用する方法を探る」、薬に頼り過ぎることのないそうした医療観について、ぜひ一度考えてみてください。
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