年棒制でも残業代は必要!給与を年棒制にする時のメリット・デメリット

執筆者: HRプラス社会保険労務士法人
はじめに

こんにちは、さとう社会保険労務士事務所の一安裕美です。


最近、「同業他社が年俸制を導入し始めている。自社でも導入できないか、経営陣から検討を迫られている」という人事の担当者さん、いらっしゃいませんか?

 

日本で代表的な年俸制といえば、プロ野球選手が有名ですね。

プロ野球選手は、労働基準法上の労働者とはいえませんが(※)、一般の会社で年俸制を採用するためには、労働基準法上のルール遵守が必須です。

※ 労働組合法上では「労働者」としての地位が認められています。

 

今回は、近年徐々に広がり始めている年俸制の基礎知識についてお話したいと思います。

年俸制とは?その性格

労働者が労働の対価として受けとる賃金の単位は、時給、日給、月給など雇用形態や契約内容によって様々です。

 

これらの単位に対して、年俸制を一言で表わすと「賃金の額を一年あたりで決定する」制度です。

 

年俸制の主な特徴
  • 年俸額は、前年度の業績の評価などに基づき、労働者と上司等の間の話し合いもしくは交渉により決定される

 

  • 毎年の目標を設定して、年度の終わりにその達成度を評価するなど、目標管理と密接に関係し、成果主義的な側面が強い

 

  • 賃金額は毎年変動しうるので、年功賃金的な性格が弱く、評価によっては前年よりも賃金が大きく下がる可能性もある

 

  •  元々は管理職向けの制度であったが、非管理職層への導入率も1割を超えるなど、一般社員への導入も進んでいる

 

年俸制を導入するメリット・デメリット

会社の風土や各部署、各人の業務内容によって年俸制の向き不向きを検討して、年俸制の対象者を決定するのが一般的でしょう。

 

想定されるメリット
  • 成果主義の徹底や年功的賃金の是正が可能になる
  • 社員の意識改革や組織風土の改善につながる
  • 目標管理制度と連動することで社員の業績達成志向が強まる
  • 目標面談とフィードバック面談が自然と必要になり、上司と部下のコミュニケーションの機会が増える など

 

 

想定されるデメリット
  • 単なる「結果主義」に陥り、過程が軽視される可能性が出てくる
  • 組織によってはチーム連帯感の喪失を招く
  • 目標達成基準や評価基準が明確にできない場合、形だけの制度に陥ってしまう
  • クレーム処理や後輩の指導など、地道な仕事をやっても評価されないという気持ちになりやすい
  • 目標管理のサイクルに合わせ、短期志向に偏りやすく、数年かけて行う改革的な活動に対する意欲が弱くなる可能性がある など

 

年俸制を導入する際の注意点

「年俸制」といっても、労働の対価として支払われる賃金に変わりはありませんので、下記の注意が必要です。

 

支給方法

労働基準法24条には、「賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と明記されています。

 

年俸制だからといって、年に1回支給して終わり、というわけではありません。

毎月1回以上支払いの必要があるのは、通常の月給の場合と同様です。

 

企業によっては、賞与月に多く振り分けることも考えられますね。

 

就業規則への定め

初めて年俸制を導入する場合、就業規則に根拠条文の定めが必要です。

年俸制の適用範囲・年俸金額の改定時期・支払方法などを詳細に記載する必要があります。

 

就業規則を変更したら、労働基準監督署へ変更の届出を行います。

変更後は、労働者へきちんと周知をしましょう。

 

特に注意したい、時間外労働について

「年俸制だから、残業代は不要か」というとそんなことは決してありません。

年俸制は、元々は労働基準法上の「管理監督者」と認められるような管理職を対象にして導入が進められた背景があるため、「残業代が不要の制度」と勘違いされているケースもあるようです。


例え年俸制であっても、残業手当、休日労働手当、深夜手当は必要です。

管理監督者であっても、深夜勤務分の手当は必要になります。

 

残業手当の基礎額を明白に

ここで問題になるのが、残業手当の基礎額です。

ここが曖昧になると、後々のトラブルにも繋がりますので、注意しましょう。

 

 

年俸が600万円、賞与の金額があらかじめ確定している場合

例えば、年俸が600万円で、これを16等分して、16分の1を月例給与、16分の4を賞与として、年間2回に分けて支払っているとします。

 

この例で、賞与部分の金額があらかじめ確定している場合は、残業手当の基礎となる賃金に含めなければいけません。

600万円÷12ヶ月=50万円が、残業手当の基礎となる賃金になります。

 

年俸が600万円、賞与の金額が変動することを前提としている場合

これに対して、「勤務成績や業績等を考慮してその都度、賞与額を決定する」等、変動することを規程で明らかにしている場合は、600万円÷16=37万5千円を残業手当の基礎とすることができます。


年俸制を導入する際は、残業手当がかさみすぎないように配慮することも必要でしょう。

 

年俸額に残業手当を含める場合に気をつけるべきこと

また、年俸額に残業手当を含める場合は、下記の3つの要件を満たすことを要件に、労働基準法に違反しない、との通達が出されています。

 

  1. 残業手当相当部分と基本給部分が区別されていること
  2. 年俸に残業手当が含まれていることが労働契約の内容として明らかであること
  3. 残業手当相当額が法定の残業手当以上に支払われていること

 

残業手当の支給については、退職した社員間とのトラブルで多い内容のひとつです。

十分に注意が必要です。

おわりに

ホワイトカラー・エグゼンプションの導入も進められるなど、日本でも仕事の成果に対して賃金を支払う価値観が広まりつつあります。


結果を残した人に対して賃金や待遇に差を儲けることで、労働者のやる気や企業全体の成長につながる可能性は期待できますが、企業として守るべき法令遵守や導入時のリスクも含めて、本当にメリットの方が大きいのか検討する必要があるでしょう。

 
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