キャリアアップ助成金「派遣労働者の正規雇用転換」とは?支給金額・対象者・注意点

「キャリアアップ助成金」の中の「正規雇用等転換コース」から、派遣労働者の直接雇用化に特化して解説。「いくらもらえるのか?」等の疑問にお答えし、この制度を利用する場合に注意すべき点もご案内。

執筆者: HRプラス社会保険労務士法人
キャリアアップ助成金「派遣労働者の正規雇用転換」

こんにちは、さとう社会保険労務士事務所の堀真寿です。


今回は、「キャリアアップ助成金の正規雇用等転換コースの中の、派遣労働者の正規雇用転換」について、お伝えします。

 

どんな助成金なの?

「キャリアアップ助成金」とは、有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規雇用の労働者の企業内でのキャリアアップなどを促進するため、正規雇用への転換、人材育成、処遇改善などの取組を実施した事業主に対して助成する制度です。


今回は、自社の社員ではなく、受け入れしている派遣社員の正規雇用への転換について、ご案内したいと思います。

支給額はいくら貰える?

支給額は、以下の通りとなります。

 

派遣元で有期雇用 ⇒ 派遣先で正規雇用
  • 中小企業:80万円
  • 大企業:70万円

 

派遣元で無期雇用 ⇒ 派遣先で正規雇用
  • 中小企業:60万円
  • 大企業:55万円

 

派遣元で有期雇用 ⇒ 派遣先で無期雇用
  • 中小企業:20万円
  • 大企業:15万円

 

派遣先で正規雇用をする場合は、平成28年3月31日までの間、支給額を増額または要件を緩和していますので、平成28年4月時点になりましたら、制度の再確認が必要です。(助成金額が下がる予定)
この平成28年3月31日という期限は、その日までに、派遣社員を正規雇用として採用すれば対象になることを意味し、支給申請日の期限ではありません。

 

中小企業の範囲

次の表の業種に応じて、「資本金の額または出資の総額」、または「常時使用する企業全体の労働者数」のどちらかの要件を満たす企業が「中小企業」に該当します。

 

 

 

支給対象となる事業主

派遣労働者を正規雇用労働者、または無期雇用労働者として直接雇用する場合は、次の(1)から(13)までのすべてに該当することが要件となります。

(1) 派遣労働者を正規雇用労働者または無期雇用労働者として直接雇用する制度※1を労働協約または就業規則その他これに準ずるもの※2に規定している事業主であること。


※1面接試験や筆記試験等の適切な手続き、要件(勤続年数、人事評価結果、所属長の推薦等の客観的に確認可能な要件・基準等をいう。)および実施時期が明示されているものに限る。
※2当該事業所において周知されているものに限る。

(2) 派遣先※3の事業所その他派遣就業※4場所ごとの同一の業務について6か月以上の期間継続して労働者派遣を受け入れていた事業主であること。
※3 派遣法第30条の2に規定する派遣先をいう。(=派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受ける者)
※4 派遣法第23条の2に規定する派遣就業をいう。(=労働者派遣に係る派遣労働者の就業をいう)

(3) 上記(1)の規定に基づき、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者を正規雇用労働者または無期雇用労働者として直接雇用したものであること。

(4) 上記(1)により直接雇用された労働者を直接雇用後6か月以上の期間継続して雇用し、当該労働者に対して直接雇用後6か月※5分の賃金※6を支給した事業主であること。
※5通常の勤務をした日数が11日未満の月は除く
※6時間外手当等を含む

(5) 支給申請日において当該制度を継続して運用している事業主であること。

(6) 直接雇用前の基本給より5%以上昇給させた事業主であること※7
※7 上記(3)において無期雇用労働者として直接雇用した場合に限る

(7) 当該直接雇用日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、当該直接雇用を行った適用事業所において、雇用保険被保険者を解雇※8※9等事業主の都合により離職させた事業主以外の者であること。
※8雇用保険法第38条第1項第1号に規定する短期雇用特例被保険者及び同法第43条第1項に規定する日雇労働被保険者を除く
※9天災その他やむを得ない理由のために事業の継続が困難となったことまたは労働者の責めに帰すべき理由によるものを除く

(8) 当該直接雇用日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、当該直接雇用を行った適用事業所において、特定受給資格離職者として雇用保険法第13条に規定する受給資格の決定が行われたものの数を、当該事業所における当該直接雇用を行った日における雇用保険被保険者数で除した割合が6%を超えている※10事業主以外の者であること。
※10特定受給資格者として当該受給資格の決定が行われたものの数が3人以下である場合を除く

(9) 上記(1)の制度を含め、雇用する労働者を他の雇用形態に転換する制度がある場合にあっては、その対象となる労働者本人の同意に基づく制度として運用している事業主であること。

(10) 正規雇用労働者または無期雇用労働者として直接雇用した日以降の期間について、当該者を雇用保険被保険者として適用させている事業主であること。

(11) 正規雇用労働者または無期雇用労働者として直接雇用した日以降の期間について、当該者を社会保険の被保険者として適用させている事業主であること。

(12) 母子家庭の母等または父子家庭の父の直接雇用に係る支給額の適用を受ける場合にあっては、当該直接雇用日において母子家庭の母等又は父子家庭の父の指揮命令の下に労働させる派遣労働者を直接雇用した者であること。

(13) 若者雇用促進法に基づく認定事業主についての35歳未満の者の直接雇用に係る支給額の適用を受ける場合にあっては、当該直接雇用日より前に若者雇用促進法第12条の認定を受けていて、当該直接雇用日において35歳未満の指揮命令の下に労働させる派遣労働者を直接雇用した者であること。また、支給申請日においても、引き続き若者雇用促進法に基づく認定事業主であること。

 

対象となる労働者
(1)同一の業務について6か月以上の期間継続して労働者派遣を受け入れている派遣先の事業所、その他派遣就業場所において当該同一の業務に従事している派遣労働者

※無期雇用労働者として直接雇用する場合にあっては、平成25年4月1日以降に締結された契約に係る期間(派遣元事業主に有期契約労働者として雇用される期間)が3年未満のものに限る

(2)正規雇用労働者として雇用することを約して雇い入れられた有期契約労働者等でないこと

 

(3)次の労働者でないこと
  • 正規雇用労働者に転換または直接雇用される場合、当該転換日または直接雇用日の前日から過去3年以内に、当該事業主の事業所において正規雇用労働者または多様な正社員として雇用されたことがある者
  • 無期雇用労働者に転換または直接雇用される場合、当該転換日または直接雇用日の前日から過去3年以内に、当該事業主の事業所において正規雇用労働者、多様な正社員または無期雇用労働者として雇用されたことがある者

 

(4)支給申請日において離職していない者であること

 

派遣労働者を直接雇用する際の留意点
(1)派遣先が、派遣労働者に対する雇用契約の申込みの義務の対象になる者を、直接雇用する場合を除きます

(助成の対象外/派遣法で義務化されているため)


雇用契約の申込みの義務の対象となるのは、次の2つの場合です(派遣法40条の4と40条の5)

 

① 派遣受入期間の制限のある業務について、派遣受入期間の制限への抵触日以降も、派遣労働者を使用しようとする場合(労働者派遣法第40条の4)

 

② 派遣受入期間の制限のない業務について、同一の業務に同一の派遣労働者を3年を超えて受け入れており、その同一の業務に新たに労働者を雇い入れようとする場合(労働者派遣法第40条の5)

 

※派遣受入期間の制限のある業務:

  1. ソフトウエア開発等の政令で定める業務(いわゆる「26業務」)
  2. いわゆる3年以内の「有期プロジェクト」業務
  3. 日数限定業務
  4. 産前産後休業、育児休業等を取得する労働者の業務
  5. 介護休業等を取得する労働者の業務以外の業務(①から⑤以外の業務)、製造業務

 

※派遣受入期間の制限のない業務:

ソフトウエア開発等の政令で定める業務(いわゆる「26業務」)、いわゆる3年以内の「有期プロジェクト」業務、日数限定業務、産前産後休業、育児休業等を取得する労働者の業務、介護休業等を取得する労働者の業務

【補足】
改正労働者派遣法が平成27年9月30日に施行されたことに伴い、以下の経過措置が取られています。
具体的には、施行日前に締結された労働者派遣契約に基づき行われる労働者派遣については、改正法の規定による改正前の労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第 40 の4及び第 40 条の5の規定は、なおその効力を有するものとしています。

 

従いまして、派遣受入期間の制限のある業務の派遣期間制限の抵触日を超えたときの、派遣先の労働契約申込み義務は、経過措置により生きてます。
派遣受入期間の制限のない業務で継続して派遣労働者を3年以上受け入れているときの、派遣先の労働契約申込み義務も、経過措置により生きてます。

 

(2)派遣法第40条の6の労働契約申込みみなし制度の対象になった者を直接雇用する場合を除きます

(助成の対象外)


労働契約申込みみなし制度とは、派遣先が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して労働契約の申し込み(直接雇用の申し込み)をしたものとみなす制度です。平成27年10月1日から施行しています。


みなし制度の対象となる違法派遣とは、以下の4つを指します。

 

  1. 派遣労働者を禁止業務に従事させること
  2. 無許可又は無届出の派遣会社から派遣を受け入れること
  3. 派遣期間制限に違反して派遣を受け入れること
  4. いわゆる偽装請負等

 

(3)労働者派遣の受入れ期間(※)の終了の日までの間に、派遣先に雇用されることを希望するものとの間で労働契約を締結するものに限ります

※派遣法第26条第1項第4号に規定する労働者派遣の期間を言います。

 

就業を開始する日が、労働者派遣の期間の終了の日の翌日から起算して、1か月以内であるときを含むものとして取り扱います。

添付書類

ここでは、派遣労働者の正規雇用転換の際に、さらに追加で必要となる書類を限定列挙します。

(通常の正規雇用転換で必要となる書類は、厚労省のホームページでご確認ください)

 

(1) 直接雇用前の労働者派遣契約書

派遣法第26条に基づき、労働者派遣契約に次の事項を定めていることが条件です。

 

① 派遣労働者が従事する業務の内容
② 派遣先の事業所の名称、所在地、部署、電話番号、および組織単位(「組織の長の職名」も明記)
③ 指揮命令者の所属、役職、氏名
④ 労働者派遣の期間及び派遣就業をする日
⑤ 派遣就業の開始、終了の時刻及び休憩時間
⑥ 安全及び衛生に関する事項
⑦ 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項
⑧ 派遣スタッフの新たな就業の機会の確保、派遣スタッフに対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用負担に関する措置その他労働者派遣契約の解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項
⑨ 派遣契約が紹介予定派遣である場合は、当該職業紹介により従事すべき業務の内容及び労働条件その他の当該紹介予定派遣に関する事項
⑩ 派遣元および派遣先責任者の役職、氏名および連絡方法(電話番号)
⑪ 時間外労働および休日労働に関する事項
⑫ 派遣労働者の福祉の増進のための便宜の供与に関する事項
⑬ 派遣先が派遣労働者を雇用する場合の紛争防止措置
⑭ 派遣労働者を無期雇用派遣労働者又は60歳以上の者に限定するか否かの別
⑮ 派遣受入期間の制限を受けない業務について行う労働者派遣に関する事項
⑯ 派遣労働者の人数
⑰ 派遣元の労働者派遣事業許可番号

 

(2)派遣先管理台帳

事業所等における派遣労働者の数と当該派遣先が雇用する労働者の数を加えた数が5人以下のときについては、派遣先管理台帳を作成および記載することを要しないこととされているので、提出は不要となります。


派遣先管理台帳の記載事項については、以下の項目が記載され、管理保管がされていることが条件です。

 

① 派遣労働者の氏名
② 派遣元事業主の氏名又は名称
③ 派遣元事業主の事業所の名称
④ 派遣元事業主の事業所の所在地
⑤ 無期雇用派遣労働者か有期雇用派遣労働者かの別
⑥ 派遣就業をした日(実績を記載)
⑦ 派遣就業をした日ごとの始業及び終業の時刻並びに休憩時間(実績を記載)
⑧ 従事した業務の種類
⑨ 派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事した事業所の名称及び所在地その他派遣就業をした場所並びに組織単位
⑩ 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項 (受付年月日、内容及び処理状況等)
⑪ 紹介予定派遣に係る派遣労働者については、当該紹介予定派遣に関する事項
⑫ 教育訓練を行った日時及び内容
⑬ 派遣先責任者及び派遣元責任者に関する事項
⑭ 派遣受入期間の制限を受けない業務について行う労働者派遣に関する事項
⑮ 派遣元事業主から通知を受けた派遣労働者に係る健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の被保険者資格取得届の提出の有無(「無」の場合は、その具体的な理由)

 

おわりに

派遣社員を活用されており、かつ、助成金を積極的に活用したいと考えている企業であれば、キャリアアップ助成金の活用をご検討ください。


派遣社員の正規雇用転換については、H28年3月31日まで支給額を増額しております。

現状、売り手市場であるため、ハローワークへ募集しても、求める人物像の応募者が来なく、人手不足で困っていると聞きます。

 

これからは、今まで以上に、派遣社員の活用も、企業成長の1つの手段であると言えます。

 
 コラムニスト情報
HRプラス社会保険労務士法人

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