退職後、同業への転職は違法なの?「競業避止義務違反」裁判の判例から考えてみる。

同業への転職は違法?退職後に裁判で争われた派遣労働者の事例を紹介。転職した社員によるノウハウや情報の流失を防ぐために、退職後も「競業避止義務」を求める企業が増加していますが、就業規則や誓約書があっても、その有効性が認められないケースも。

執筆者: HRプラス社会保険労務士法人
退職後も競業避止義務を負うの?ある派遣労働者の裁判事例

こんにちは、HRプラス社会保険労務士法人(旧さとう社会保険労務士事務所)の星野陽子です。
さとう社会保険労務士事務所は法人化し、HRプラス社会保険労務士法人になりました。


さて、平成27年10月30日、東京地方裁判所にてこんな判決が出されました(平成25年(ワ)第21848号)

派遣会社から、競業する他の派遣会社に転職した労働者が同じ派遣先で派遣就業した事案について、この労働者の転職に関し競業避止義務違反は生じない。


「派遣労働者に競業避止義務?」と疑問を感じた方もいらっしゃるでしょう。
この事件を、少し詳しくご紹介させていただきます。

 

 

事件の概要
同業への転職は「雇用契約上の競業避止義務違反」?

原告は「派遣会社X社」で、被告は「X社で正社員として働いていたYさん」です。


X社は、Yさんを派遣先A社に派遣していました。

Yさんは、約1年間X社に在籍し、派遣先A社で業務に従事していましたが、退職し、間もなくハローワークを通じてB社に転職、B社から派遣先A社に派遣されました。


これに対し、X社はYさんに、雇用契約上の競業避止義務違反または不法行為に基づき180万円の損害賠償を求め、訴訟提起しました。

 

原告「派遣会社X社」の言い分

X社の就業規則には、こう定められていました。

 

会社、取引先等の機密を漏らさないこと。

具体的には、社則及び社内書類全般、企業に関する全データ、業務に関する全てのデータ等の複製並びに社外への持ち出し及び出版物やWeb当の掲載などによる漏洩等を禁止する。

尚、退職した場合も競業避止義務として退職日から起算して3年以内は当社と競業関係に立つ業種に関与することを禁止する。

 

さらに、次のような誓約書を結んでいました。

 

①「在職中に業務上知り得た客先及び第三者に対して、自らの営業活動をしないこと、又、直接仕事の打診があった場合にはEグループに対して報告し、書面による承諾を得て仕事を受注するものとする。」

①の規定は、「自らが競業業者を含むその他の会社に雇用された場合には、その会社内での活動に準用する。」

 

「企業側の利益」と「労働者の職業選択の自由」、どっちが優先される?

一般に、労働者は、職業選択の自由を保障されており、会社を退職した後には競業避止義務を負わないものとされています。

 

「したがって、退職後の転職を禁ずる本件競業避止義務規定は、その目的、在職中の被告の地位、転職が禁止される範囲、代償措置の有無等に照らし、転職を禁止することに合理性があると認められないときは、公序良俗に反するものとして有効性が否定されるというべきである」と判示されました。

 

裁判所は、原告X社の請求を棄却!

そして、裁判所はこのように判断しています。

 

確かに、原告(X社)の主張する、労働者派遣事業を行うために原告が負担する顧客開拓・維持の費用あるいは業務拡大の期待利益については一応保護に値すると考えられるが、1年勤務したに過ぎない被告(Yさん)に対する職業選択の自由の制約として見た場合、(中略)本件競業避止義務規定がそれぞれ定める要件は抽象的な内容であって、幅広い企業への転職が禁止されることになる。

 

また、禁止される期間も、3年間の競業避止期間は被告(Yさん)の勤続期間1年と比較して非常に長いと考えられるし、本件誓約書及び本件覚書については規定の限度が全くないことから、いずれも過度に制約を被告(Yさん)に強いているものと評価せざるを得ない。


その他待遇等を含めた事実認定、評価により、東京地裁は、競業避止規定によってYさんの転職を禁止することは合理性があるとは認められないとし、Yさんの転職に関する競業避止義務違反は生じないと判示し、原告X社の請求を棄却しました。

 

おわりに

派遣労働者の方は、他社に派遣され就業するため、一般的に就業中に習得した知識や技術、経験が特殊なものではないことが多く、そもそも競業避止義務規定が認められるケースは少ないように思われます。


競業避止義務を負わせることが必要な場合については、正当な理由を示すことができなければなりませんね。

 
 コラムニスト情報
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